Stories of Chairs

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OW-23 Slim Chair

 

どこにもありそうで、どこにもない椅子
 

人形町周辺には住宅用マンションが急激に増えた。
供給が増えたせいなのか、地価は都心に近いわりに他の地域より安い。
伝統の町、事務所の町には、住人が増えたにもかかわらず、ゴミ収集の環境が追いついていなかった。
  
駅からONWAY人形町事務所へ行く途中、粗大ごみ置き場の無いマンションの前を通る。
そのマンションの自転車置き場には、錆びついた折りたたみ会議室用の椅子が1週間もおかれていたのだが、とくに気にすることなく通りすぎるだけだった。
  
一方、中国工場では、ある得意先の椅子開発の途中だったのだが、その構造になかなか解決方法がなく行き詰っていた。
ある日ふと、東京人形町のあのマンションの自転車置き場の椅子を思い出した。
中国にいた私は東京事務所に電話を入れ、その椅子がまだそこにあるかスタッフに確認した。
粗大ゴミのシールが貼られていないせいか、幸いなことにまだそこに置かれていた。
スチール製でかつ古いパイプのもので結構重い。そして、破れた発泡材座面には黒くなったカビが生えていた。
  
帰国後の出勤日、早朝その椅子を1時間ほど借用し、事務所で真剣に観察した。
 
前・後ろ・折りたたみ式の椅子でシンプルな構造だが、両側面の「S」状のパイプ曲げは綺麗だった。さらに東洋人体格の人にはそのわずかな肘かけでも両手をのせて休息することができるようになっている。
この形状の椅子は木製のもあれば、鉄製のもある。意外性は無かったが、しかし、その時に抱えていた椅子構造のテーマには大きなヒントとなった。
それは2本のパイプで「人」が型となり、椅子の側面を形成させることだ。
 
ただ、形状だけではまだ商品にはならない。その先には、大きな難題が待っている。
  
最初の難題は、不可能に近い、前後折りたたみ型と中央収束型との一体化だ。その課題解決には最も時間を費やした。即ち、
 1、二つの脚部構造が動く方向が違う。
 2、連動するための支点が足りない。
  
何回も実験を行ったが、いずれも失敗に終わった。社内の技術者もあきらめて匙を投げた。
 
半年後の商品開発会議で再度その話題がテーブルに上がった。
ちょうどその時期に得意先のほかの角パイプ椅子を作っていたので、その角パイプで定向しゅう動ができるかもしれないと提案があがった。
早速、手元の角パイプで「人」型椅子側面フレームを試作品を作る。
  
次の難題は、「人」型の側面フレームが平面並べにして、そして、前後に開閉しないといけない。
従来の丸いパイプは結合部の接点は「点」であって「面」ではない。
丸いパイプを角パイプに変え、前後開閉に必要なパイプ同士が「面」での接点にした。
  
更なる難題は、支点作りだ。
前後折りたたみ型椅子の座面を中央収束型の脚部機構で支える。まさしく、「不可能を可能にする」ことへの挑戦だ。
ONWAY技術者は、前方脚部の上部と座面フレームとの連結部の結合点を特殊形状のサポート部材で強化し、しゅう動方向を一定方向にした。
小さい部材で100キロもの耐荷重を満たすことは簡単なことではない。
  
次に座面の動く方向を強制的に決める連動機構を増設した。内蔵式の連動機構で外観に遜色のないように心がけて作った。
  
最後は背面の「X」状フレームと前方フレーム、及び両側面フレームとの寸法修正を行い、中央収束時に容易に開閉するように入念にはかりながら、最終仕上げに入った。
  
このように数々の難題に取り組み、解決していった結果、この椅子は発案から商品化するまでに1年半もの歳月がかかったのだ。

2010年に美しいデザインと、過去になかった仕組みで評価され、G-Mark グッドデザイン賞を取得した。