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OW-109 Roll Table

洗濯ヒモから
ワールドスタンダード
「巻ける」アルミ天板

昔ながらの木製ロールテーブルをアルミで作ったらどうだろう?
発表の3年後には当たり前のように普及したアルミ製ロールテーブル。
誰もが目にしたことのあるこのテーブルが、じつはふとした日常風景と日用雑貨から生まれたことは、誰も知らない。

アルミ天板でより軽く、より小さく
 天板をロール状に巻いて収納する木製のテーブルは、前世紀からあった。細長い木の板を連ねてひもで縛りつけて巻く天板だ。これにアルミを使ったらどうだろう? そんな考えが浮かんだきっかけは、図書館の新聞コーナーで目にした並んだ金属製の新聞挟みだった。軽量アルミの角パイプを天板にしてはどうかと、思いついたのだ。

アルミパイプをどうつなぐか?
 しかし、このアルミパイプをどうやってつなげば、使用時にフラットになるのか? テーブル天板とするからには、当然ながらすべてのパイプが平らに並ばならなくてはならない。
 木製の場合ように幅広のテープで固定することは難しい。例えば、ひもを通してつなぐ方法では、使うたびに何度もひもを広げたり締め直したりすることになり、実際に使うにはかなり面倒である。さらにひもが切れた場合、天板がいきなりバラバラになってしまう可能性がある。

 アルミパイプの天板というアイデアの前に、まず、パイプ同士の固定方法が最初の課題として立ちはだかった。1995年のことだった。

ベランダから見えたヒント
 当時、当社のオフィスは東京の西新井という町にあった。
事務所のベランダの向こうには日清紡東京事務所の社員寮が並んでおり、その先には工場があった。その工場で使う化学薬品が反応して蒸散するのだろうか、しばしば刺激臭がオフィスの中まで漂ってくる。たまに臭いのしない日は、ベランダに出て新鮮な空気を吸いながら外を眺めたものだった。
 アルミパイプのつなぎ方を模索していたその頃、機械の点検日か何かか、久しぶりに工場からの臭いのない日があった。ベランダの扉を開けると、向こうの社員寮のベランダでは、主婦が洗濯物を干している。ふと、その主婦が使っているゴムの物干しロープを見た時、「これだ!」とピンと来たのだ。ゴムひもで12枚の板をつなげば、弾力があるから、蛇腹に並んだ角パイプを自由に拡げたり縮めることができる。
 さっそく車で10分ほどのホームセンターに駆け込んだ。ゴムひもを買って帰り、ベランダでサンプル実験を試みた。一本切れてももう一本あるからと考えて2本のゴムひもでアルミ角パイプを一列につないだのだ。これが初代アルミロールテーブルのひな形となった。

軽量化、そして商品化への道
 連結方法が解決したら、次の課題は「軽量化」だ。サンプルのままだとアルミの塊でしかない。つまり商品にはならないのだ。
 「アルミ角パイプのロールテーブル」は、ゴムひもを使うことで構造的には可能となったが、普通のテーブルのサイズで使える重さにするとなると、全体のアルミ重量を削るしかない。脚部よりも、まずは12枚ある天板1枚ごとの重量を減らさないと話にならなかった。なんといっても天板であるからには、板の平面積と強度は確保しなければならない。その上で軽くするには、パイプの肉厚を減らすしかない。1mm、0.9mm、0.8mm…と、最適厚を求めて試作をくり返した。

旧型機械で0.76mm厚に到達
 当社の中国工場周辺には、アルミ建材を手がけているアルミ押し出し工場は数十社ある。しかし、こちらが求めるスペックを知ると、どこも引き受けてくれなかった。ようやくたどり着いたのが、古い押出機を使い、夫婦と従業員2名で経営している小さな工場だった。なかなか大きな仕事を取ることのできない零細企業にとっては、願ってもないチャンスでもあった。この小さな工場の旧型機械でさまざまな試行錯誤をくり返し、ようやくアルミ角パイプの板厚を0.76mmまで減らすことに成功したのだ。

脚部固定の新方式
 もうひとつ、考えるべき点があった。ついに実現したアルミロール天板を、脚部とどうつなげるかという点だ。木製のものは左右端の板を垂れる形にして脚部にダボ留めするものあるが、それでは安定性が足りないだろう。かといっていちいちねじ留めするのではあまりに使いづらい。
 そこで開発した新しいジョイント方法が、クリップ方式だ。12枚のうち両端に来るアルミ角パイプの裏側、計4カ所にプラスティック製の凹型クリップを付けたのだ。拡げた脚部の上部パイプをパチッとはめるだけで固定できるこの仕組みは、特許も取っている。
 1996年の夏、こうして商品化にこぎつけたアルミロールテーブルが市場に公開された。アルミ素材はリサイクルが可能な上、清潔で洗いやすいなど利点は多い。さらに、従来の木製品と比べて、このテーブルでは収納サイズが一気に小さくなったことが大きなポイントだった。
 4人用と6人用の2タイプが市場に出ると大ヒットとなり、それまで木製テーブルが占めていた市場で主流となった。3年後には世界のアウトドアシーンで当たり前のように普及していたが、この誰もがどこかで見たことのある定番テーブルが、ベランダで主婦が使っていた洗濯ヒモから生まれたことは、誰も知らなかった。